パスポートのコピーをメールで送るのは安全?
海外ツアーの申込み、ビザの取得代行、海外のホテル予約、現地でのレンタカーやSIMの契約、留学やワーキングホリデーの手続き。パスポートのコピーは、旅行の準備を進めるうちに何度も求められます。多くの人はそのたびに顔写真ページをスマホで撮り、メールやチャットにそのまま添付しています。相手が旅行会社であれ大使館であれ勤務先であれ、対応は同じ——スマホで撮って、そのまま送信。
「パスポートのコピーをメールで送るのは安全なのか」という問いに、実務的な答えを一言で書いておくと、コピーそのものは危ういけれど、送信前に手を入れれば実用上は許容できるレベルまで下げられるです。パスポートのコピーは身分証のなかでもとりわけ扱いに注意が要る一枚で、国際的に通用する本人確認書類であるうえ、券面には他の身分証にはない情報まで載っています。何がどう危ないのかを整理したうえで、メール添付や画像アップロードで送る前にできる4つの対策を、この記事で具体的にまとめます。
コピー1枚に、これだけ写っています
日本のパスポートの身分事項ページ(顔写真のあるページ)には、次の情報が載っています。改めて並べてみると、その密度に驚くはずです。
- 旅券番号。航空券の予約やホテルのチェックイン、各種のオンライン手続きで本人を紐づける識別子として使われます。
- 氏名(漢字とローマ字表記)と生年月日、性別。海外サービスの本人確認では、この組み合わせがそのまま鍵になります。
- 本籍の都道府県。他の身分証ではまず出てこない項目です。
- 所持人自署(サイン)。自筆の署名が高解像度で写り込みます。ここを見落としている人がとても多い部分です。
- 顔写真、発行年月日、有効期間満了日。
- MRZ(機械読取部分)。ページ下部の英数字2行です。ここについては、少し詳しく説明させてください。
MRZ(Machine Readable Zone)は、空港の読み取り機がパスポートを一瞬で処理するための領域です。旅券番号・国籍・氏名・生年月日・性別・有効期限が、決まった書式で符号化されて詰め込まれています。
ここが実務上の落とし穴になります。券面の各欄を丁寧にマスキングしても、MRZを消し忘れれば同じ情報がそっくり読み取れてしまうのです。隠したつもりが隠せていない、という状態が一番危ない。パスポートのコピーを加工するときは、まずこの2行に目を向けてください。
悪用されると何が起きるか
パスポートのコピーが持つ価値は、国内の身分証よりも一段高いと考えたほうがいいでしょう。国境をまたいで通用する書類なので、悪用する側にとっての使い道も広いからです。
- オンラインの本人確認(KYC)の突破。海外の暗号資産取引所や送金サービスには、パスポート画像のアップロードだけで口座を開けるものがあります。きれいなコピーは、そのまま他人名義の口座づくりに使われかねません。
- 航空券・ホテルの不正予約。旅券番号と氏名、生年月日が揃えば、本人になりすまして予約を取ることが可能になります。
- ビザ・渡航手続きの不正利用。申請書類にコピーを流用されると、本人が知らないところで渡航記録が作られることになります。
- データとしての売買。身分証のスキャン画像は、まとまった量で取引される対象になっています。提出先が漏えいを起こせば、コピーはそのまま流通します。
- 署名の複製。高解像度で写った自署は、書類の偽造に使える素材になります。
そして厄介なのは、被害に気づくのが遅れることです。国内の口座やカードの不正利用なら明細で分かりますが、海外サービスで自分の名義が使われても、通知はまず届きません。だからこそ、渡す前の対策が効いてきます。
対策1:必要なページ・必要な項目だけにする
最初にやるべきは、渡す情報そのものを減らすことです。
まずページ数。求められているのが本人確認であれば、必要なのは顔写真のある身分事項ページの1枚だけです。査証(ビザ)ページや出入国スタンプのページには渡航歴が並んでいます。これは本人確認とは別の情報なので、明示的に求められていない限り渡す必要はありません。「全ページのコピーを」と言われたら、何の確認に使うのかを聞いてから判断してかまいません。
次に項目。その手続きに関係のない欄は隠せます。ホテルの予約確認のように氏名と有効期限が分かれば足りる場面で、旅券番号やMRZ、署名まで見せる必要はありません。隠すときはモザイクや塗りつぶしで完全に覆うのが原則です。ぼかしを軽くかけただけでは、桁数や文字の形から推測できてしまうことがあります。とくに数字は、薄いぼかしだと読み取られると考えてください。
そして繰り返しになりますが、隠すならMRZの2行も忘れずに。ここが残っていると、他をどれだけ丁寧に消しても意味がありません。
見せたくない項目はモザイクで隠す
番号や住所などをモザイク・塗りつぶしで隠せます。すべて端末内で処理します。
対策2:透かしを入れて用途を固定する
マスキングで減らせるのは「渡す情報」ですが、渡した情報が別の場所で使い回されることは防げません。そこを担うのが透かし(ウォーターマーク)です。
書く内容は提出先 + 用途 + 日付の3点セットです。「〇〇トラベル ツアー申込用 2026年8月17日」のように書きます。こう入っていれば、そのコピーは他社に出しても不自然で通りませんし、万一出回ったときにどこから漏れたのかをたどる手がかりにもなります。単に「コピー」とだけ書いた透かしは、どこにでも使えてしまうのでほとんど効果がありません。
ステップ1:ツールを開く
スマホでもパソコンでも構いません。ブラウザで imagemarker.app/ja/ を開きます。インストールも会員登録も不要です。
ステップ2:画像を選んで文字を入力する
撮影したパスポートの画像を選び、提出先・用途・日付を入力します。処理はすべてブラウザ内で行われ、画像が端末から出ることはありません。表示は繰り返し(タイル)にして画像の端まで広げます。角に一か所だけ入れたものは、トリミングで簡単に消せてしまうからです。不透明度は30〜50%が目安で、透かしが読めて、なおかつ券面の記載も判読できる濃さに整えます。
ステップ3:ダウンロードして送る
保存して、原本ではなく透かし入りのほうを送ります。ここで一つ注意点があります。パスポートのような書類を、画像をサーバーへ送信するタイプのオンライン加工ツールで処理するのは避けてください。守るための作業が、それ自体で新しい流出経路になってしまいます。見分け方は簡単で、機内モードにしてから加工してみることです。オフラインのまま最後まで完了するなら、端末内で処理されている証拠です。
身分証に今すぐ透かしを入れる
無料・インストール不要。ブラウザ内で完結し、画像はアップロードされません。
対策3:送る前にEXIFを削除する
ここは見落とされがちですが、パスポートについてはとくに重要です。
スマホで撮った写真には、EXIFと呼ばれる情報が埋め込まれています。撮影時のGPS座標、撮影日時、端末の機種などです。つまり、自宅でパスポートを撮れば自宅の座標が、滞在先のホテルで撮れば滞在先の座標が、画像そのものに書き込まれます。
思い出してください。パスポートの券面に住所は載っていません。載っているのは本籍の都道府県までです。それなのに、EXIFを付けたまま送れば券面には書かれていない自宅がピンポイントで相手に渡ることになります。旅行中であれば、いま自分がどこに泊まっているかまで伝わります。券面をどれだけ丁寧にマスキングしても、この経路は塞げません。
SNSの多くはアップロード時にEXIFを取り除きますが、メールの添付ファイルやクラウドの共有リンク、チャットの「ファイルとして送信」では残ったままです。パスポートのコピーを送る経路は、まさにこちら側が中心になります。透かしを入れる前後どちらでも構いませんので、送信前にEXIFを削除する習慣をつけてください。
EXIFに何が入っているのか自体をもう少し知りたい方は、 書類の透かし入れツールの選び方 でツールの選定基準もあわせて確認しておくと安心です。
写真に GPS 情報が残っています。送る前に EXIF を削除
位置情報・撮影日時・カメラ情報をワンクリックで削除。端末内で処理します。
オンラインの本人確認(e-KYC)に送るとき
ここまでは旅行会社やホテルといった相手を想定してきましたが、いま実務でパスポートのコピーを一番よく求めてくるのは、実はオンラインの本人確認(e-KYC)です。マイナンバーカードを持っていない、あるいは対応していないサービスでは、パスポートが本人確認の主役になります。
代表的な提出先を並べると、送り先ごとの温度差が見えてきます。
- 海外の暗号資産取引所。Binance、Kraken、Coinbase など、海外に本社のある取引所は日本のマイナンバーカードを本人確認書類として受け付けない場合が多く、実質パスポート一択になります。券面画像と自撮り(セルフィー)を組み合わせるライブネス判定が入るのが標準です。
- 海外送金サービス。Wise、Revolut、Remitly など。日本国内の運転免許証やマイナンバーカードでも登録できることが多いのですが、送金上限を上げるアップグレードでパスポートを求められます。
- 海外の銀行・証券口座のオンライン開設。日本にいながら海外口座を作るタイプのサービスです。国内金融機関よりも身分事項ページ以外に「住所を証明する書類」を追加で求めてくる傾向があります。パスポートには住所が載っていないので、光熱費の請求書や住民票を別に用意することになります。
- 海外のクラウドサービスや業務ツールの本人確認。取引のあるフリーランスや個人事業主が、支払いを受けるための本人確認としてパスポートを求められることがあります。
- ビザ・入国手続きに関わるオンライン申請。ESTAやETA、電子ビザなど、券面の情報を打ち込ませる形式なら画像アップロードは通常ありませんが、代理申請サービスに依頼するときは券面のコピーが渡ります。
いずれの場合も、「アップロードする画像は、その一社の本人確認だけに使われるコピーである」ことを画像そのものに書き込むのがこの記事の一貫した提案です。透かしの文言は「〇〇 KYC提出用 2026年9月6日」のように、サービス名・用途を「KYC提出用」と明記・日付の3点で組みます。
ここでよく質問されるのが、「透かしを入れると自動判定で弾かれないか」という点です。実務上の答えは、KYCベンダーによって扱いが違うです。券面の主要項目(氏名・旅券番号・有効期限・生年月日・顔写真・MRZ)が機械可読で読み取れる状態を維持していれば、多くのベンダーは通ります。ただしライブネス判定を伴う自撮り工程では、透かしのない券面の提示を求めてくるサービスもあります。実際に不安なら、まず透かし入りで一度試してみて、差し戻されたときに透かしなしで再提出する運用が現実的です。順序を逆にはできません。透かしなしのコピーを一度サーバーに渡してしまうと、そこにコピーが残ります。
自撮り(セルフィー)そのものにも同じ考え方を適用してください。KYCベンダーはあなたの顔と券面の顔を照合するために撮影を求めていますが、撮った顔写真がその後どこに保管され、どれくらいの期間残るかは各社のプライバシーポリシー次第です。撮影前にプライバシーポリシーの保管期間の項目に一度目を通しておくと、想像より長く残るサービスがあることに気づけます。
最後にひとつだけ強調させてください。KYC提出のためにパスポート画像を加工する作業を、画像をサーバーへ送信するタイプのオンライン加工ツールで行うのは、この文脈では特に避けたいです。守るためのはずの加工が、それ自体でもう一つのKYC相当の相手に画像を渡す作業になってしまいます。処理は必ず、機内モードで完結するタイプのブラウザ内ツールで行ってください。
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対策4:海外滞在中の扱い方を決めておく
ここまでは「送るとき」の話でしたが、旅先ではコピーの持ち方そのものが問題になります。実践しやすい原則を挙げます。
- 原本はセーフティボックス、持ち歩くのはコピー。街歩きの間に原本を失うリスクは、コピーを持ち歩くリスクより高くつきます。滞在国によっては身分証の携帯が求められるので、渡航前にその国の扱いを確認しておいてください。
- ホテルにパスポートを預けっぱなしにしない。チェックイン時に提示や複写を求められること自体は一般的ですが、その場で返してもらいましょう。「あとで取りに来て」と言われたら、コピーを取る間だけ待たせてもらうほうが確実です。
- 現地の代理店やレンタカーには透かし入りを渡す。「〇〇レンタカー 車両貸出用 2026年8月17日」と入れておけば、その一件に用途が固定されます。
- クラウドに置くなら暗号化する。いざというときのために控えを持っておくのは有効ですが、共有リンクや無料のファイル便に置きっぱなしにするのは避けてください。パスワード付きの保管場所に入れ、リンクは発行しないのが基本です。
- SNSに上げない。パスポートはもちろん、搭乗券も同じ扱いにしてください。搭乗券のバーコードや予約番号からは、氏名・便名・座席、場合によっては予約全体にアクセスできてしまうことがあります。旅の写真としてつい撮りたくなる一枚ですが、公開範囲を問わず載せないのが安全です。
それでも紛失してしまったら
対策をしていても、盗難や紛失は起こります。慌てないよう、手順だけ頭に入れておきましょう。
- 現地の警察に届け出る。紛失・盗難届の証明(ポリスレポート)を受け取ります。保険の請求にも使います。
- 最寄りの日本大使館・総領事館に紛失届を出す。そのうえで、新規発給または「帰国のための渡航書」を申請します。渡航書は日本へ帰国するためだけの書類で、発給は比較的早く進みます。
- 本人確認できる資料を出す。ここでコピーの控えが効いてきます。旅券番号と発行日が分かるだけでも手続きは速くなります。原本とは別の場所に、できれば紙とデジタルの両方で控えを持っておいてください。
控えを作るときも、透かしは入れておいて損はありません。「紛失時再発給用 控え」と書いておけば、それが手続き用の控えであることが一目で分かり、他の場面に流用されにくくなります。
よくある質問
Q:パスポートのコピーはどのページを渡せばいいですか?
A:原則として顔写真のある身分事項ページの1枚だけです。査証(ビザ)ページや出入国スタンプのページは、渡航歴という別の情報なので、明示的に求められていなければ渡す必要はありません。提出先から「全ページ」と言われたときは、何の確認に使うのかを聞いてから判断してください。
Q:MRZ(下2行の英数字)は隠したほうがいいですか?
A:本人確認に必要ないのであれば隠すことをおすすめします。MRZは機械読み取り用の領域で、旅券番号・国籍・生年月日・性別・有効期限がまとめて符号化されています。券面の他の欄をマスキングしても、MRZが読める状態なら同じ情報がそのまま復元できてしまいます。隠すときは透かしではなく、モザイクや塗りつぶしで完全に覆ってください。
Q:透かしを入れたパスポートのコピーでも受け付けてもらえますか?
A:氏名・旅券番号・有効期限・顔写真が読める状態であれば、旅行会社やホテルなど多くの提出先で問題なく受け付けてもらえます。ただし、ビザ申請のように提出書類の様式が厳密に決められている手続きでは、加工したコピーが差し戻される場合があります。公的な申請では事前に窓口へ確認してください。
Q:パスポートの写真からEXIFで何が分かりますか?
A:撮影時のGPS座標、撮影日時、端末の機種などが分かります。自宅でパスポートを撮れば自宅の座標が、滞在先のホテルで撮れば滞在先の座標が画像に埋め込まれます。パスポートの券面には住所が載らないにもかかわらず、EXIF経由で居場所が特定できてしまうわけです。送る前にEXIFを削除してください。
Q:海外でパスポートを紛失したらどうすればいいですか?
A:まず現地の警察へ届け出て、紛失・盗難届の証明(ポリスレポート)を受け取ります。そのうえで最寄りの日本大使館または総領事館に紛失届を出し、新規発給または帰国のための渡航書を申請します。手続きには本人確認できる資料が必要になるため、コピーや戸籍謄本の控えを原本とは別に持っておくと再発行が早く進みます。
出発前の5分で足ります
パスポートのコピーを求められること自体は、旅行や海外での手続きにつきものです。避けようがありません。ただ、そのコピーがどこまで使われ得るかは、渡す側で相当に絞り込めます。必要なページだけにして、関係ない項目とMRZを覆い、提出先・用途・日付の透かしを重ね、EXIFを落としてから送る。全部やっても5分ほどです。
運転免許証やマイナンバーカードでも考え方は同じです。あわせて 身分証のコピーに透かしを入れる方法 と マイナンバーカードのコピーに透かしを入れる方法 もご覧ください。